井上尚弥 VS ラモン・カルデナス──ダウンは衰えなのか?

ボクシング

会場:米国ラスベガス・T-Mobile Arena
日本時間:2025年5月5日(月)
試合形式:世界4団体スーパーバンタム級タイトルマッチ(12回戦)
対戦カード:井上尚弥(王者)vs ラモン・カルデナス(挑戦者)

この注目の一戦が開催され、私は「Prime Video Boxing 12 in Las Vegas」で観戦しました。
井上尚弥選手が2ラウンドで喫したダウンについて、ネット上では「階級の壁か?」「衰えでは?」といった声が散見されます。

果たして本当に衰えなのか?
元プロボクサーの視点から、私なりの考察をお届けします。


自己紹介

はじめまして。
私はフルタイム勤務の会社員をしながら、プロボクサーとして活動していました。A級ライセンスを取得し、日本ランキングにも入りました。
現在は現役を退いていますが、今でもボクシング観戦が大好きな一人です。


ダウンは「衰え」なのか?

結論から言えば、「今回の試合だけを見て、衰えと判断するのは早計」だというのが私の見解です。
つまり『加齢による衰えではない』と考えています。

では、なぜそう思うのか?
井上選手本人、そして世間の多くはこの試合を「どう井上がカルデナスを圧倒し、KOするのか?」という視点で見ていたことでしょう。
私もその一人です。

つまり、井上選手自身も「ただ勝つ」だけでなく、「圧倒的に勝つ」という明確なプランを持って試合に臨んだはずです。
その戦略が、結果的にリスクを高める展開を招いたのではないかと考えます。


ダウンシーンの背景

試合は井上選手が序盤からプレッシャーをかけ、カルデナス選手を圧倒しにいく展開で始まりました。
当然、カルデナス側もこの展開を想定していたはずです。高いガードで冷静に応戦し、反撃のチャンスをうかがっていました。

そして第2ラウンド、井上選手がロープ際で強引に詰めたところへ、見事な左フックのカウンターをもらいダウン。
これが今回の試合の最大のハイライトだったと言えるでしょう。

カルデナス選手については「お見事!」の一言です。
序盤からスピード、威力ともに申し分ないジャブや左フックを繰り出し、非常に危険な選手であると感じました。


フルトン戦・タパレス戦との比較

今回のダウンは、「井上選手が序盤から圧倒しにいった試合展開によって生まれたもの」だと考えます。
これは、過去のフルトン戦やタパレス戦と比較するとよくわかります。

スティーブン・フルトン戦(Sバンタム級初戦)
 この試合では井上選手は慎重な立ち上がりを見せ、まず勝つことを優先した戦い方でした。
 リスクを抑えながら徐々に相手を崩し、KOへとつなげていった展開です。

マーロン・タパレス戦(4団体統一戦)
 こちらも初回から無理に圧倒することはなく、警戒心を持ちながらペースを掴んでいきました。

これらに比べると、カルデナス戦では明らかに「仕留めにいく姿勢」が強く出ていたため、リスクも増していたといえます。
だからこそ、今回のダウンを「年齢による衰え」と断じるのは時期尚早です。

また、ダウンを喫したのは2ラウンド終了間際。
その後はしっかりと立て直し、最終的には8ラウンドでKO勝利を収めたことからも、心配は不要でしょう。

※補足:井上選手はライトフライ級でキャリアをスタートさせ、現在のスーパーバンタム級まで4階級アップしています。


年齢による衰えは否定できるのか?

一方で、「年齢による衰えがまったくない」と言い切ることもできません。
かつて長期政権を築いた選手たちも、31~32歳を迎えた頃から被弾が増え、反応の低下を感じさせる場面が増えていったように思います。

  • 山中慎介(元WBCバンタム級王者、12度防衛)
  • 内山高志(元WBAスーパーフェザー級王者、10度防衛)

この2人も防衛をかさねながらも、年齢による変化を感じさせる場面がありました。

逆に、年齢を重ねても安定したディフェンスで長く活躍した選手もいます。

  • 西岡利晃(元WBCスーパーバンタム級王者)
  • 井岡一翔(元ミニマム~スーパーフライ級の世界王者)

両者ともに、若い頃はスピード重視のスタイルでしたが、年齢とともに落ち着きのあるボクシングへと変化。
その結果、被弾を最小限に抑え、キャリアを長く維持しました。


まとめ

井上尚弥選手は、圧倒的な勝利を求められたことで、今回はややリスクの高い攻め方を選んだのだと思います。
その結果、ダウンシーンが生まれた。

しかし、それ以外のラウンドではフルマーク。
世界ランキング1位の相手を8ラウンドでKOするという実力は、スーパーバンタム級でも抜けています。

私は今回のダウンを「加齢による衰え」ではなく、「攻め急いだ結果」だと見ています。
とはいえ、次戦──2025年9月に予定されているムロジョン・アフダマリエフ戦──では、また違った一面が見られるかもしれません。

もし同様に被弾してしまうようなことがあれば、加齢の影響も否定できなくなるかもしれません。
その答えは、次戦で明らかになるはずです。

いずれにせよ、毎試合ワクワクさせてくれる井上尚弥選手の今後が、ますます楽しみです。

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